ネット上の医療(健康)サイトの質の確保をめざすガイドラインの最新報告
以下の資料は、日本インターネット医療協議会が毎月発行している会員向け「JIMAニュース」より抜粋整理したものです。
文章責任:三谷 博明(事務局長)
【1】ネット上の医療(健康)サイトの質の確保をめざすガイドラインの最新報告
~その1 CHCFの調査レポートから~
先月ご案内のように、JIMAでは、今期平成13年度、厚生省の厚生科学研究費補助金による研究事業を辰巳理事長が研究代表者として受けるかたちで実施させていただいています。研究テーマは「医療・保健分野におけるインターネット利用の信頼性確保に関する研究調査」ですが、ただ今、アンケート調査も完了し、報告書の作成に入っているところです。JIMAでは、これまでインターネット上の情報やサービスの質の向上をめざす立場から、インターネットの普及が日本よりも早く、この種の問題に民間レベルで早くから対応してきていた海外NPOの活動を伝えさせて参りましたが、今期の厚生科研事業の報告にあわせて改めて、JIMAと同じようなガイドラインづくりに努める諸団体の動きを逐次報告して参りたいと思います。その導入の意味も含めまして、今号では、海外のある研究レポートを紹介させていただきます。
アメリカのヘルスケア分野の最新の動向に関するレベルの高い研究調査活動を行うことで知られているCHCF(カルフォルニアヘルスケアファンデーション) が2000年の夏頃に実施してまとめた研究報告書がそれです。「A Report on the Quality ofHealth Information on the Inerenet」と題するもので、標題のとおり、主にアメリカ国民を対象にインターネット上で提供されるヘルスケア情報の質について、初めて科学的、客観的な評価考察を加えたものとして注目されているものです。
調査の内容は、(1)特定の疾患に関して一般のサーチエンジンで検索して得られる情報にはどのようなものがあるか、(2)医療(健康)サイトで提供される情報は、どの程度正確であるか (3)これらのサイトで提供される情報を理解するには、どのくらいの読解力を必要とするか、の3つのテーマに関するものです。
まず、1番目の調査では、 AltaVista、Excite、Google、Yahoo! などの著名な検索エンジンを利用して、特定の医学情報に関する検索を行ったところ、その60%しか目的のテーマに関連する内容しか出てこなかった、また、その中身も検索エンジンごとに内容が違い、その半分は製品やサービスを宣伝するものだったと報告されています。これについては、サイバーダイアログ社の別途の調査による、コンシューマーの半数以上が、ひとつのヘルスケア情報の検索に30分もかかっていてることも引きあいに出しながら、ネットを利用した情報の検索の効率の悪さを指摘しています。
次に2番目の調査ですが、医療系のWebサイトで提供されている情報を評価するために、乳がん、喘息、うつ病、肥満症の4疾患に関する18の英語のサイトと7つのスペイン語のサイトを選び、各サイトの内容をふたりの専門家が評価しました。選定されたサイトは、アメリカ国民によく知られたものでした。上の4つの疾患に関し、3~4名の専門家と患者団体代表が、患者や家族の立場から知りたいと思う質問を想定し、仮定された質問に対する標準的な回答を用意しておきました。そして、これらの情報が実際のサイト上でどのくらいカバーされているかをみていきました。内容としては、専門家の一般的なコンセンサスがある話題、コンセンサスがない話題、また診断法や治療法に最新の知見がある話題などに分類されました。また、評者の先入観を排するため、サイト名は隠し、通常のテキスト文に直されました。
この評価作業の結果、設定されたトピックの数に関し、正しい情報が必要最低限カバーされている割合は、英語の全サイト平均で乳がん 63%、こどもの喘息36%、うつ病44 %、肥満症37%だったといいます。たとえば乳がんの専門サイトとして知られているOncolinkでは85%というのに対し、Yahoo!では27%という結果だったそうです。必要な情報が足りないだけでなく、記載された内容に矛盾があったり、提供情報の著作者名や日付の記載が、3分の1の割合いで欠けていたことも指摘されています。たとえば、喘息では命にかかわる危険な兆候があることに触れたり、ダイエット食品の安全性や効果についてきちんと触れたページも少なかったこともあげられています。
そして、3番目の調査ですが、提供された情報を理解するのにどの程度の読解力を必要とするかを評価するため、ランダムに抽出した文章のセンテンスの長さや使用単語の難易度を調べてみました。その結果、英語のサイトの約半分は大学卒業程度の学力がないと内容が理解できないこと、平均的な利用者にはヘルスケア情報は難しすぎることが指摘されました。
現在、アメリカでは、年間に一億人がインターネット上でヘルスケア情報を利用、その70%が病気や健康管理を決めていくに際して何らかの影響を受けていることが報じられています。医療(健康)関連のWebサイトは数万、ページ数では数百万にのぼると推測され、それらは、日々更新されて中身も変わっていくため、今回の調査はその一端をとらえたに過ぎないとCHCFは断っていますが、それでも、今日、インターネット上でコンシューマーが病気や健康の問題について、有益な情報を得ようとしていくことが難しい、人々がいつ、どのようなケアを受けるべきか決定する情報源としてインターネットに頼り過ぎると、深刻な結果をもたらすかも知れないと警告しています。
このような調査を踏まえて、CHCFはインターネット上でヘルスケア情報を扱うものに以下のような提言を行っています。
すなわち、ヘルスケアWebサイトのコンテンツプロバイダーには、
・あまり難解な内容にならないように注意する。
・コンシューマーグループと共同して、利用者がどのようなことを訊きたがっているかをよく把握する。
・医療コンテンツについては、専門家によるシステマティック・レビューを受ける。この時、医療(健康)サイトの質を確保する
評価基準として、HONやHi-Ethics、eHealth Ethics InitiativeあるいはAMA(米医師会)ガイドラインなどを導入してみる。
・レビューは、外部の独立した組織に行ってもらう。
医療関係者には、
・患者が有用なサイトとそうでないサイトを区別できるように支援する。
・たとえば、簡単なWebページをつくり、内容が適切で信頼できるサイトにリンクを設け、新しいサイトができたりした時には、
患者にe-maiでも案内してあげる。
・日常の診断の場において、情報を批判的にみることができる医師の役割を強調し、患者との間に信頼関係を築いておく。
・医療の専門家たちは、患者が医療ケアを受けるにあたって必要とする情報が何であるかを的確につかむためアドボカシー
(患者支援)グループと協力しあうべきである。
また、コンシューマーには、
・オンラインの世界でうまく自らをナビゲートしていく能力を養っていく。
・あまりよく知られない、また公的でないサイトには注意をする。多くは営利目的でつくられている。情報を提供する裏側には、
何かを売りつけようとする意図が隠されていることもある。
・具体的な症状があったり、ケアが必要な時や、情報に迷った時は、まず専門家に相談してみる。
といったようなことをすすめています。
そして、最後に、これらのことをスムーズに進めていくには、政府、非営利セクター、コンシューマー・アドボカシー組織、企業、医療専門家、その他公益に関わる人々の相互の協力が不可欠であることを強調しています。
以上、簡単にサマリーを紹介させていただきましたが、この調査レポートは、アメリカ医師会誌(JAMA)でも紹介され、政府関係者にも参考資料として供せられたということでした。
このCHCFのレポートを読んで、われわれが厚生科研の一環として2000年の春にとりまとめさせていただいた国内のWebサイトの調査研究と対比してしまいましたが、似たような研究目的でありながら、向こうの研究グループのシステマティックな研究手法と、対象サイトのコンテンツを定性的、定量的に分析してみる徹底さには驚嘆させられました。今後の参考にしたいと思います。
さて、次回は、アメリカの民間ガイドラインについて紹介させていただきます。
参考サイト
・CHCF(California HealthCare Foundation)
http://ehealth.chcf.org
・JAMA(The Journal of the American Medical Association)
http://jama.ama-assn.org/
【2】ネット上の医療(健康)サイトの質の確保をめざすガイドラインの最新報告
~その2 URACのヘルスWebサイト基準の紹介~
前号では、インターネット上の情報やサービスの質の向上をめざす海外NPOの活動紹介に先立ち、実際にネット上で提供されるヘルスケア情報の質を評価したアメリカのCHCFの研究報告をとりあげさせていただきました。
同報告書では、コンシューマー向けに提供されるヘルスケア情報の中身において深刻な問題があること、またこのままでは潜在的なハザード(potential hazards)の危険性があることを指摘した上で、情報の質を高め、利用者の安全を守るための具体的な提案が行われています。
そのひとつとして、情報提供者がWebサイトのコンテンツの質を高めていくにあたり、民間のプライベートセクターで提案されている倫理規範やガイドラインなどを評価手段として採用することをすすめています。
Health on the Net(HON)、Hi-Ethics、eHealth Ethics Initiative、AMA (アメリカ医師会)Guidelinesなどですが、この他にもURACがよく知られています。eHealthEthics Initiativeのeヘルス倫理コードにつきましては、以前に詳しく紹介させていただきましたので、今回はURACのガイドラインを紹介させていただきます。
URACは、アメリカ認定保健医療委員会として、保健医療産業に基準を設けるため、医療機関、保険会社、監査機関、コンシューマーが集まって1990年に設立された非営利団体です。2001年7月にヘルスWebサイト基準 (Health Web site Standards)を策定し、医療サイト認定プログラムを開始したことが報じられています。
この認定プログラムの対象者は、
・ヘルスケアに関するヘルスプランや保険会社
・病院やクリニックなどの医療機関
・健康管理団体やケアハウス
・インターネットその他の電子媒体を利用して健康(医療)情報を提供する機関
・上記の業務内容を複合的に提供する団体
となっています。
URACの認定を得るには、情報の開示法、情報コンテンツとサービスの提供法、外部へのリンク、プライバシー保護、セキュリティ等について、必要な基準を達成することが求められます。
いずれの項目についても、細かなガイドラインが規定されていて、チェックポイントは50項目にものぼっています。
詳しく見ていきますと、まずWebサイトで提供される情報やサービスについて、Webサイトの利用者に以下のような内容を予め公開すべきとしています。
a.医療コンテンツ、コミュニケーションサービスの提供、個人の健康情報管理、または商業サービスの内容に関する情報
b.サービス提供にあたっての利用規約
c.下記のような制限事項を含むサービスの利用手順、制限事項
・利用者の個別の健康状態に応じたカウンセリング
・緊急時の医療相談
d.利用者と他の参加者の権利と責任
また、Webサイト所有者に関する情報として、
・サイト所有者やWebサイト(製品、サービスや関連、支持団体を含む)に関する主な投資情報、利益情報。
・住所、正式名称を含むWebサイト所有者情報
・Webサイト所有者に関する更なる情報 (年間報告書など)の取得方法、
なども明示すべきだとしています。
さらに、Webサイトのコンテンツの編集方針を利用者に開示することを基本としてWebサイト上で広告や出資等の資金提供を受けていある場合には利用者にその事実を開示すること。また、資本提携関係があるスポンサーと医療コンテンツの関係に関し、 検索エンジンの結果に優先的にリストされるスポンサー名や製品がある場合にはその事実を開示すること。これらのスポンサーからコンシューマー向けに提供される情報がある場合はその情報源も明示すること。コンテンツやサービスの提供に際しての共同ブランディングの有無と、WEbサイト上での広告宣伝活動に関する方針を利用者に告知しておくこと、などを求めています。さらに他サイトとのリンクに基づく金銭的、営業上の関係がある場合にはこのことも開示すべきだとしています。
次に、医療コンテンツの編集方針に関しては、Webサイトで提供されるすべての医療コンテンツに関する編集評価プロセスを開示することをあげています。具体的にはコンテンツの著者名(または)情報源を明らかにすること、コンテンツの最終更新日を記載すること、また文言やデザイン、配置場所によって利用者が広告情報と医療コンテンツを明確に区別できるようにすることを求めています。
この中には、たとえば、臨床経験や学術研究に基づく医療コンテンツを掲載する場合は、そのコンテンツの正式著者名を明記することもあげています。
そして、医療コンテンツに携わるすべての著者の(著作権も含めた)利害衝突に関する方針を策定しておくこと、また利用者が容易に情報を検索し、読んで理解することを可能にすることを求めています。
また、サービスに関しては、たとえば、Webサイト上で自己診断ツールを提供する際は情報源やツールの根拠、あるいは自己診断ツールの最終評価日なども明記すべきだとしています。さらに、サービス提供で医師との連携がある場合には医師との連携が倫理規範によりカバーされているかどうかが利用者にわかるように告知し、同時に、医師が倫理規定を確実に遵守できるシステムをサイト上で確立しておく必要があるとしています。その中には、サービス提供責任者の認証情報(可能であれば、医師の資格情報など)の開示も含まれています。
以上のように、URACは医療系サイトで提供される情報やサービスの品質を確保するため、コンテンツの編集方針やサービスの提供法に関し、非常に細かな倫理基準を設けています。ここでは、個別の内容についての絶対的な基準を提示するものではなく、利用者が情報やサービスの利用を自分で選択する際の判断材料として、サイトの運営方針に関する事実情報を開示することが主眼とされています。
このURACのWebサイト認定基準は、昨年の7月に発表されたものですが、以前に紹介したeヘルス倫理コードや、同じアメリカの大手医療系サイトが採用しているHi-Ethicsと内容がよく似ています。似ているだけでなく、相互に関係があり、交流がはかられているようです。この辺は民間のプライベートセクターの立場を生かし、自分が一番と主張することなく、お互いが共存して協力、補完しあっているところが特徴的です。 Hi-Ethicsは、14項目からなる基準原則の実行にあたり、URACのWebサイト認定基準に拠っていきたいと表明しているほどです。
私たちも、2000年秋頃から向こうの動きに注意を払いながら、いろいろ勉強させていただきました。その結果は、昨年6月から始めたJIMAのトラストプログラムのセルフアセスメントにも反映されていたと考えていますが、このURACの認定基準を読みながら、改めて共通点を感じた次第です。
URACのWebサイト認定基準は、この後、プライバシー保護やセキュリティの問題に関しても、12項目にのぼる規定をあげ、細かな原則を提示しています。詳細は割愛させていただきますが、医療分野での個人情報は、パーソナルヘルスインフォメーション(PHI)と定義して、WebサイトでPHIを収集する際には、必ず利用者のオプトインを得ることを強調しています。ここでいうオプトインとは、利用規約のようなかたちで、Webサイトが利用者の個人情報の収集と引き換えに提供されるサービスの内容をあらかじめ利用者に正確に開示した上で、利用者が自らの意思でこれらのサービスを利用するか否かを意思決定できるようにすることをさしています。10ページ以上にのぼるURACのWebサイト認定基準は、最後に、Webサイト所有者が Webサイト上で行うすべての活動について、それを統括するポリシーと実行手順 (Policies andProcedures)を確立し、これを文章として明文化し、運用管理することとしています。
また、これらのポリシーが正しく実行されるよう、事業者や組織の内部で「品質管理委員会」のようなものを設置し、日常的に監視、評価、提言ができるようにすることを求めています。医療機関や事業者にとって、Webサイトの運用は個人レベルの情報発信でなく、組織として管理すべきものであり、そのためにはWebサイトの品質の管理に責任をもつ委員会の設置が不可欠である。この委員会の構成メンバーとして、医療コンテンツに責任をもつ専門医師、並びにWebサイトでのプライバシーポリシーに関して責任のある者が含まれることを条件としています。
現在、このWebサイト認定基準をパスして、指定の認定シールを掲示しているサイトが 13件あります。その中には、大手ポータルのWebMD社や、NLM(国立医学図書館)のMEDLINEplusなどに医学情報を提供しているADAM社などの名前があがっています。サイトの数としては、まだ少ないのですが、こうした活動が今後どのように展開されていくか日本からも注目されるところです。
参考サイト
・URAC
http://www.urac.org/
・eヘルス倫理コード(日本語訳)
https://jima.or.jp/code/ehealthcode.html
(2002.3.31)
【3】ネット上の医療(健康)サイトの質の確保をめざすガイドラインの最新報告
~その3 Hi-Ethics倫理規範の紹介~
JIMAニュース第9号でインターネット上の情報やサービスの質の向上をめざす海外NPOの紹介ということで、URACの活動をとりあげさせていただきましたが、今号では、同じアメリカのHi-Ethicsを紹介させていただきます。
Hi-Ethicsは、Health Internet Ethicsの略です。インターネット上のヘルス関連のサービスを利用するコンシューマーの信頼を確保するため、大手のポータルサイトを運営する会社が働きかけてできたNPOです。現在のメンバー会社のリストには、A.D.A.M、allHealth.com/iVillage、America Online、HealthCentral.com、HEALTHvision、Healthwise、InteliHealth、LaurusHealth.com Medscape、VeritasMedicine、WebMD、WellMedなどの名前があがっています。
Hi-Ethicsの目標は、プライバシーやセキュリティ、情報の質の確保などにおいて高い基準を設け、これに従っていくことにあるとしています。1999年11月から倫理規範の策定作業にかかり、2000年5月に14項目からなるHi-Ethics Principlesを仕上げたと記されています。
その14項目は以下のようなものです。
- プライバシーポリシー(Privacy Policies)
- 医療(健康)に関する個人情報の高度な機密保護
- 第三者との業務提携におけるコンシューマーのプライバシー保護
- 主体者情報とスポンサーシップに関する情報開示
- 広告並びに第三者のスポンサーによる医療情報コンテンツの区別
- 宣伝的勧誘、リベート、無償サービスについて
- ヘルスインフォメーションコンテンツの質について
- 著作表示と説明責任(Authorthip and Accountability)
- セルフアセスメントツールに関する情報源と根拠の開示
- プロフェッショナリズム(Professionalism)
- 資格(Qualifications)
- 相互作用、公正、信頼性に関する透明性
- 制限事項の開示(Disclosure of Limitations)
- コンシューマーからのフィードバック受付体制
項目名をみていただければわかりますが、内容的にはこれまで紹介してきたURACや eHealth Code of Ethicsの中身と似たようなものであります。プライバシーの取り扱い方、情報の質、コンテンツの編集方針とスポンサーシップの開示、プロフェッショナリズム、利用者のフィードバック体制等、共通して重要なテーマがとりあげられています。
14項目はあっても、全体の文章量としては多くなく、他に比べても簡潔でわかりやすいことが特長です。
たとえば、プライバシーポリシーの項は以下のようになっています。
- プライバシーポリシー(Privacy Policies)
私たちはコンシューマーの目に付きやすく、読みやすく、理解しやすいプライバシーポリシーを採用します。私たちのプライバシーポリシーは、
A.情報利用に関し、利用者に以下の事項の開示を含む適切な通知を行っていきます。
1.利用者に関する情報を収集したり、利用していることについて
2.統計データの利用について
3.ヘルスWebサイトで収集された個人情報に対し、第三者からどのようなアクセスがあるかについて
(起こりうる場合)
B.第三者への情報の移転に対する同意を含め、コンシューマーの個人情報を収集、利用することに対し同意
あるいは拒否の選択ができる権利を提供します。
C.誤って収集された個人情報に関し、積極的にセキュリティ対策に取り組むことを約束します。
D.私たちが維持管理する、その他の利用者の個人情報を変更した時に起こりうることの記述も含め、
自分の個人情報を適宜、確認、修正、削除したりできる機会を提供します。
プライバシーに関しては、オプトインによって同意を得た以外の用途には利用しないことを示し、第三者との業務提携における個人情報の扱い方について細かく規定事項を設けています。
「主体者情報とスポンサーシップに関する情報開示」に関しては、サイトの所有者名 (Ownership)の明示だけでなく、運営面で資金支援しているスポンサーがあればこれを開示することも求めています。10%以上の株を所有する株主の開示など、条件を具体的にあげています。
「広告並びに第三者のスポンサーによる医療情報コンテンツの区別」については、文言やデザイン、配置場所などにより、コンテンツと広告が明確に区別されることを求めています。また、自社広告だけでなく、他社のスポンサーシップによるコンテンツの提供や広告に関しても、コンシューマーの目につきやすいところに、読みやすく理解しやすいかたちでポリシーを掲示することも求めています。その中には、利用者情報や統計データの提供によって、第三者から利益を得ているかどうかの開示も含まれています。
コンテンツの編集方針を利用者に開示することは、コンテンツの質をたえず自分で評価、チェックする上でも重要なこととされていますが、特に医学情報の場合は、情報の出所や作成日などの記載は欠かせないものとして強調されています。第8項の「著作表示と説明責任(Authorthip and Accountability)」では、第三者が著した情報を再利用する場合には その作成者名、情報源、作成日、最終更新日などを掲示するものとしています。内容によっては、著作者に関する一般的情報のほか、専門家によるレビュー手法についても情報提供を行うべきだとして、Accountability を強く求めています。
情報やサービスの受け手であるコンシューマーの信頼に応えるには、サイト運営者はコンテンツの作成法やプライバシーの扱いなどサイトの運営方針のひとつひとつについて、公正さ、透明性を確保しながら、利用者が納得できるようなかたちで説明していく姿勢が、Hi-Ethicsの倫理規範全体の中で要求されているようです。これは他の倫理規範やガイドラインにも共通するものでもあります。
Webサイトの運営に関しては、誰が運営しているか(Ownership)、誰が書いたものか (Authorship)、誰がスポンサーか(Sponsorship)といった点から、Accountabilityを果たしていくことが求められているわけです。
このHi-Ethicsは、現在バージョン1ということで、今後、バージョン2に向けて、改訂が準備されているということです。2001年5月には、URACが始めた医療サイト認定プログラムの賛同を表明し、7社がすでにURACの認定を受けたことも発表されています。そのURACは、世界最大のプライバシー保護団体であるTRUSTeとパートナーシップを組んで、医療分野でのWebサイトのプライバシー保護認定プログラムを開始したことが報じられています。折しも、アメリカでは、2003年4月からのHIPAA法の完全施行を迎え、プライバシー対策が急務となってきて、プライバシー保護や情報の質をめぐるEthicsが関係者のキーワードにもなってきているようにうかがえます。ヘルスケア業界では、この6月にワシントンで「ETHIC 2002」というタイトルの会議なども予定されていて、Ethicsに対する関心の高まりを示しています。
参考サイト
・Hi-Ethics
http://www.hiethics.org
・URAC
http://www.urac.org/
(2002.5.31)
【4】ネット上の医療(健康)サイトの質の確保をめざすガイドラインの最新報告
~その4 AMA(アメリカ医師会)ガイドラインの紹介~
これまで、インターネット上の情報やサービスの質の向上をめざす海外のガイドラインとして、eHealth Ethics Initiativeのeヘルス倫理コード、URAC、Hi-Ethicsなどを紹介してきましたが、最後にAMA(アメリカ医師会)のガイドラインをとりあげさせていただきます。
AMAのガイドラインは、医療のプロフェッショナルの集団であるアメリカ医師会が作成したものだけあって、プロフェッショナルとしての倫理に裏付けられた質の高いものになっています。これまでとりあげたガイドラインに比べて内容的にもレベルが高く、他のガイドラインにも影響を与えていることは明瞭です。
ガイドラインの全文は、アメリカ医師会のサイトに公開されています。現在のかたちのものが完成したのは、2000年2月28日とされていますが、公開にいたるまでに5年の月日がかかっています。その経緯を見ると、ガイドラインの中身がAMA自身がインターネット上でさまざまな情報発信を行う、その流れに沿って検討されてきたものであることがわかります。
1995年、AMAのサイトで、JAMA(アメリカ医師会誌)の各号のコンテンツタイトルと抄録を Webで公開、1996年には医師会に登録中の医師全員の名前、専門、所属が検索できるデータベースの提供を開始、1997年にはコンシューマー向けのヘルスケア情報を提供するヘルスインサイトという名の専門サイトを開設、1999年9月にはJAMAの全文記事がオンラインで検索できるサービスの提供を始めました。
これらのサービスに合わせるようにして、Webで提供される情報を自主的に規制するガイドラインが生まれてきました。たとえば、当初、印刷物のみ対象としていた広告に関するガイドラインは 1995年にWebサイトにも適用できるものに改訂されました。1997 年には、ネット上の医療情報の質に関するガイドラインを策定、この中には、コンテンツの著者名や情報源の明示、サイトの所有者に関する情報開示、広告スポンサーに関する情報提供、コンテンツのアップ日や更新日の明記の規定も含まれていました。1999 年には、リンクに関するガイドラインもできています。
そして、ようやく1999年には、個々に策定されてきたガイドラインを一本化しようという提案がなされました。扱う項目は大きく分けて、コンテンツ、広告とスポンサーシップ、プライバシーと守秘、そしてeコマースの四つに分類され、包括的にまとめたガイドラインのドラフト案が提示され、内外の有識者のレビューを受けました。続く何度かの修正を経て、2000年2月にAMAの執行委員会の最終的なレビュー、承認を受けたとされています。
この経緯からもわかるように、AMAのガイドラインは、初めから包括的に作成されたものでなく、Webサイトを通じて実際に情報やサービスを提供していく際に提起されるさまざまな課題に対応していく必要に応じて、順次、検討されてきたものであることがわかるのです。
しかも、ガイドラインの内容は固定のものでなく、今後も環境の変化に合わせて、再評価されながら、発展していくべきものとされています。また、このガイドラインは、AMAのWebサイト用にまとめられたものですが、同様に医療情報を提供する他のヘルスケア関連のサイトにも適用できるものあることをうたっています。
さて、AMAガイドラインは、以下の4部から構成されています。
- PRINCIPLES FOR CONTENT
- PRINCIPLES FOR ADVERTISING AND SPONSORSIP
- PRINCIPLES FOR PRIVACY AND CONFIDENTIALITY
- PRINCIPLES FOR E-COMMERCE
1のPRINCIPLES FOR CONTENTは、コンテンツに関するガイドラインです。インターネットができる前から、AMAではJAMAをはじめとした印刷媒体を発行してきた経験から、コンテンツのあり方に関して堅実なポリシーができあがっていたようです。医学系の書籍や専門誌を編集する際の編集方針が、デジタルコンテンツの領域にも生かされていることがうかがえます。
他の三つの項目に比して、コンテンツに関するガイドラインは充実しているのも当然かもしれません。
その内容を少し紹介させていただきますと、まず、コンテンツには、文章、写真、表、音声、ビデオ等、あらゆる形があることを定義した後、以下のように細かな基準をあげています。
・Webサイトのオーナーシップ(所有者)を明記すること。
・コンテンツを閲覧するのに必要なプラットフォーム、ブラウザに関する情報を提供すること。
・コンテンツへのアクセスに登録作業やパスワードが必要な場合は、そのことがそのことがすぐわかるようにする。
・有料で閲覧・利用できる情報がある場合は、そのことがすぐわかるようにする。
・コンテンツのレビューに関しては、オリジナリティ、正確性、信頼性において情報の質を事前にレビューする。この際、
評価者はコンテンツの製作者自身でない他の専門家を起用すること。
・言語は利用者のレベルにあわせること。文法、スペル、文章構成の面からもチェックする。
・編集方針、レビューの方法もサイト上に記載しておく。
・情報のアップ日、更新の日付を明記する。
・コンテンツの著作者名、所属等のソースを明記する。参考資料がある場合は適宜記載しておく。
・サイト内のナビゲーションについては、閲覧者がいつでも元のページに戻れるようにする。閲覧者が望まないページに
誘導しないこと。許可なしに他のサイトのページを自己サイトのフレームに取り込まないこと。
・PDFファイルなどダウンロードすべきファイルがある時は、必要なソフトの入手法も含めてその方法を案内する。
・コンテンツのナビゲーションのためにサイトマップやサーチエンジンを用意したり、FAQのページを設けたり、
問い合わせ等のフィードバック手段を提供すること。
ガイドラインの前文でも書かれていることですが、コンテンツの提供にあたって情報提供側にこのような細かな配慮を求める背景として、これまでWebサイトの利用者は不完全で、不正確、誤った情報を利用する恐れがあることを警告されてきた、しかしながら、これに対抗するためのレイティングには限界がある、質の評価を行うための絶対的な基準がないならば、少なくとも、従来のメディアを利用する時と同じような評価基準が適用できるはずだ、という考え方も述べられています。
この方針は、続く、第二部の「広告とスポンサーシップに関する原則」にも反映されています。その内容はAMAの出版物における広告の原則がベースになったとされています。実際に、AMAのWebサイトにおいて、広告スペースが提供されていて、編集コンテンツが広告の影響を受けないようさまざまな条件を課しています。
以下のような具合です。
・コンテンツと同じトピックの広告は同じ場所におかない。
・広告の制作スタッフは、広告が掲示されるページのコンテンツの内容を予め知ることを許されない。
・広告と編集コンテンツは明確に区別すること。区別が不明瞭な時は、「広告」と明記すること。
・1ページにつき、広告は1件。トップページには広告のアイコンはおかない。
・閲覧者の意図に反して、広告のページに誘導しないこと。・広告のページや外部のスポンサーのサイトにリンクで移動する時は、
間に緩衝用のページというべき”buffer page”を用意し、たとえば、「あなたはAMAのサイトを離れます。×××社のサイトに行き
たい時は、下のボタンをクリックください。行きたくない時は、BACKボタンで戻ってください」というような案内を入れる。
この最後の手法は、かなり徹底したものだと感心しますが、AMAのサイト以外にも実際にこのような方法を採用している民間の医療情報サイトを見かけることがあります。
また、スポンサーシップに関しても、コンテンツの制作にあたり、何らかの金銭的または金銭に代わる援助を受けている場合は、そのことを開示することを求めています。その場合、支援元に関する情報も提供することが望ましいとしています。
第三部の「プライバシーと(患者情報の)守秘に関する原則」では、これまで他のガイドラインでみてきたのと同じようなプライバシーの扱いに関するさまざまな注意事項があげられていますが、これらに加えて、患者の医療情報を本人の了解なしに公開することを禁じています。従来の医療出版物においても徹底されてきた原則として、ヘルスケアのプロフェッショナルは、患者の診断・治療にかかる情報やデータを開示する際には、プライバシーに関して、法的、倫理的な配慮を忘れてはならないとしているのです。
媒体は、印刷物、デジタル画像、オンライン、オフラインの区別はなく適用されます。また、患者の同意をとることができる当事者でない場合、たとえば編集者としてこの種の情報を扱う場合は、ドクターや研究者に対し、インフォームドコンセントをとったかどうかを確認することを求めています。同意がとれている場合は、そのことをWeb上に明記すべきものとしています。
このように、AMAガイドラインの中でも、医療コンテンツの中での患者の個人情報の取り扱いに関しては、ひときわ厳格な編集ポリシーが定められているわけですが、このガイドラインの起草者のひとりが、JAMAの副編集長のMargaret A.Winker 女史であったことで、うなづけるものがあります。因に、このWinker女史は、2000年10月ラスベガスで開催された、”Quality Healthcare Information on the ‘Net 2000″で、このガイドラインについて自ら解説を行い、他のアドボケートたちと並んでシンポジウムの熱っぽい議論の輪の中に参加していました。その若さと、AMAの中での実際の仕事ぶりを比較して、感心させられた次第です。
第四部の「eコマースに関する原則」は、主としてネット上で、ヘルスケア関連の有料サービスを提供する時などの注意事項をあげたものです。プライバシーやセキュリティの確保に関し、テクニカル的な留意点をいくつかまとめています。
一般的な注意にあわせ、サービス利用時の問い合わせ手段(電話、FAX、メール)をきちんと確保すること、事務オペレーションにかかる時間を明記しておくこととしています。また、製品やサービスの注文、決済、受け渡しに関する情報は、事前に詳しく提供することを求めています。
以上のように、AMAガイドラインは、医療プロフェッショナル向けのガイドラインにふさわしく内容的にもよく吟味されたものになっています。しかし、厳しいながら、いずれも実行可能なもので、他のヘルスケア関連のサイトでもここに書かれた基準が実際に採用されているのをみます。ガイドラインの前文にある文章は、違う場所でも紹介させていただきましたが、インターネットのような情報技術が医療で果たす役割を以下のように明確に定義していることでも注目をひきます。
Access to medical information via the internet has the potential to speed the transformation of the patient-physician relationship from that of physician authority ministering advice and treatment to that of shared decision making between patient and physician.
インターネット上の医療情報にアクセスできるようになって、患者と医師の関係が変わり、従来の権威主義から、意志を共有する対等の関係になるだろう、と言っているのです。
この文章の後には、こうした期待される変化を阻害するものとして、情報の質とプライバシーのふたつの問題があることを指摘、これらの問題の解決に向けてAMAガイドラインが検討されることになった旨が述べられています。
参考サイト
・AMAガイドライン
http://jama.ama-assn.org/issues/v283n12/ffull/jsc00054.html
・アメリカ医師会
http://www.ama-assn.org
(2002.7.31)