「患者・家族におけるインターネット上の医療(健康)情報の利用状況と意識に関する調査」

2002.03.31 研究報告
JIMAマーク

 研究報告書(H12-医療-013)



    「患者・家族におけるインターネット上の医療(健康)情報の利用状況と意識に関する調査」
 



この研究は平成13年度厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)の「インターネットを活用した医療施設情報の提供と利用の促進及び安全な医療情報流通促進のための個人情報の取り扱いに関する調査研究」として実施したものです。



・主任研究者 辰巳治之 札幌医科大学医学部 教授



・分担研究者

 花井 荘太郎 国立循環器病センター 高度情報専門官
 三谷  博明 日本インターネット医療協議会 事務局長

・研究協力者

 水島  洋 (国立がんセンター研究所)
 高橋 基文 (医療法人二葉会)
 西藤 成雄 (西藤こどもクリニック)
 小内  亨 (おない内科クリニック)
 大山 博司 (医療法人社団明人会田島病院)
 森田  巧 (ソニーコミュニケーションネットワーク株式会社)
 前田  泉 (ティー・エム・マーケティング株式会社)


【研究主旨】

 インターネットを活用して、医療(健康)情報やサービスを提供・利用していく際の情報の質や信頼性確保に関する問題を検討するため、利用者である患者やその家族を対象に、実際の利用状況や情報の質、プライバシー保護、倫理ガイドライン等に対する意識についてアンケート調査を実施した。  集計分析の結果、インターネット利用の信頼性確保という観点から、検討すべき課題があることが確認された。



A. 研究目的

 現在、インターネット上には病気や病気の治療法に関する情報、医療機関や医師に関する様々な情報が提供され始めているが、新規な技術媒体ということもあって、情報やサービスの提供方法や利用法に関し、提供者・利用者間のコンセンサスが確立されていない状況である。
 医療機関や医師に関する情報提供についても、既存のメディアにおいては、これを規制する法律があり、その枠内において行われているが、インターネットを利用した情報提供は規制の対象外にあることから、情報提供が自由とされ、医療機関をはじめ、民間企業、患者(団体)あるいは個人等、様々な立場から、医療や健康に関する情報が提供されるようになってきた。
 今日の情報化社会では、医療・保健の領域において、一般の国民や利用者が病気のケアの質を高めたり日常の健康管理に役立つ情報を容易に入手してうまく役立てていく上でインターネットを活用した医療や健康に関する情報の提供・利用が期待されるが、実際に提供されている情報やサービスをみると、その内容面において有用性が認められるものがありながら、一方では情報やサービスの内容、及びその提供方法において、安全性や信頼性の面で疑問を感じるものも見受けられる。そこで、本研究では、インターネット利用における信頼性確保という観点から、実際にインターネット上で医療や健康に関する情報やサービスを利用している患者・家族を対象にアンケート調査を行い、日常の利用状況やその意識を調査分析する研究を行った。


B. 研究方法

 日常的にインターネットを使用し、医療や健康に関する情報を利用している患者及びその家族を調査対象に設定した。日本エル・シー・エー社の協力を得て、高血圧、糖尿病、喘息、アトピー性皮膚炎、胃がん・乳がん・大腸がんの疾患を有する患者及びその家族に依頼し、Webサイト上で所定の質問に回答してもらった。対象者はいずれも、同社のWebサイト(「わたしの病院」)の利用者で、この種のオンライン調査に同意があり、かつ今回の調査の条件に該当する人たちの中から任意で選定した。個人情報の扱いに注意し、個人宛のアンケートの依頼は、対象者の名簿を有する同社に委託し、本研究班は、個人情報を除く回答データ並びに集計データのみ扱うようにした。
 アンケートの協力を依頼した人数は2,000名であった。内訳は男性1,000名、女性1,000名、また患者と家族の割合も同数とした。疾患別では、高血圧618名、糖尿病407名、喘息595名、アトピー性皮膚炎595名、胃がん・乳がん・大腸がん219名であった。
 なお、疾患の種類を5種としたのは、今日、代表的な生活習慣病としてとらえられている疾患(高血圧、糖尿病)、近年患者の増加が顕著で、疾患の解釈や治療法をめぐり様々な意見が出ている疾患(喘息、アトピー性皮膚炎)、治療が難しく、治療法の選択が大きく違う結果をもたらしうる疾患(胃がん、乳がん、大腸がん)毎の傾向を比較するねらいがあった。
 質問の内容は、インターネット上で提供される病気や薬などの医療(健康)情報の利用状況に関するもの、掲示板・オンライン会議室や医療相談の利用状況に関するもの、それらの信頼性に関するもの、個人情報の保護や、プライバシーポリシー、Webサイトの運用ガイドラインなどに関するものであった。全ての質問項目を資料1-1に示す。

C. 研究結果

1.患者アンケート

 オンラインでのアンケート回答方法により、2002年2月1日から2月5日の間に、1081名の回答を得た。依頼者全員に対する回答率は54.1%であった。回答者の内訳は、男性401名、女性380名、それぞれの回答率は40.1%、68.0%であった。患者本人か家族かの区別では、患者551名、家族530名、それぞれの回答率は55.1%、53.0%であった。また、疾患毎の回答率は、高血圧53.2%、糖尿病54.1%、アトピー性皮膚炎60.7%、喘息63.7%、胃がん・乳がん・大腸がん合計で49.3%であった。

1.1.単純集計結果

 アンケートの内容と、単純集計結果を資料1-1に示す。

1.1.1 回答者のプロフィール

 回答者の平均年齢は37.1歳であった。性別では、男性の平均年齢は41.3歳、女性は34.7歳、また患者の平均年齢は39.2歳、家族の平均年齢は35.0歳であった。疾患別の平均年齢は、高血圧41.4歳、糖尿病38.8歳、アトピー性皮膚炎33.6歳、喘息33.9歳、胃がん・乳がん・大腸がん38.1歳であった。
 回答者における年代別の構成は、20歳以下2.2%、20代21.9 %、 30代 40.9 %、40代22.6%、50代8.2%、60代3.2%、70歳以上0.9%であった。性別の構成は、男性37.1 %、女性62.9%であった。患者本人か患者の家族かの区別では患者本人51.0 %、家族49.0%であった。疾患別の構成は、高血圧30.4%、糖尿病20.4%、アトピー性皮膚炎33.4%、喘息24.3%、胃がん・乳がん・大腸がん10.0%、その他が12.2 %であった。一人の人が、複数の疾患を有する場合もあった。

1.1.2 インターネットへの接続方法

 主なインターネットへの接続方法としてあげたものは、「モデムまたはISDN利用によるダイアルアップ接続」53.0%、「ADSLまたはxDSL」22.8%、「CATV」19.9%、「光ファイバー」0.9%、「携帯電話またはPHS」0.8%、その他2.5%であった。

1.1.3 よく利用する検索エンジン

 医療(健康)情報を検索する時、最もよく利用する検索エンジンは「Yahoo!」61.8%、「Google」13.1%、「Goo」8.3%、「MSN」7.4%、「Infoseek」4.9%、「LYCOS」1.4%、「Netscape」0.5%、その他 2.6%であった。

1.1.4 情報の利用頻度

 掲示板やオンライン会議室は除き、「インターネットを利用して病気や薬などに関する情報をどのくらいの頻度で利用されていますか」の問いに対して、「ほとんど毎日」7.1%、「1週間に1度以上」15.8%、「1カ月に1~3回」48.4%、「1年に1~数回」28.7%であった。

1.1.5 利用情報について

 「利用している情報」(複数回答)については、「病気に関する一般的情報」73.7%、「病気の治療法に関する情報」59.2%、「薬に関する情報」54.9%、「医療機関に関する情報」32.0%、「同じ患者の体験情報」31.5%、「QOL(生活の質)に関する情報」7.5%、「医師に関する情報」6.9%、その他2.2%であった。

1.1.6 利用情報の信頼性

 「利用されている情報は全体的にみて、信頼できると思いますか」の問いに対して、「かなり信頼できる」9.5%、「まあまあ信頼できる」83.0%、「あまり信頼できない」7.1%、「ほとんど信頼できない」0.4%であった。

1.1.7 信頼できない理由

 利用している情報が、「あまり信頼できない」「ほとんど信頼できない」と回答した人81名にその理由を尋ねたところ(複数回答)、「情報の中身の確かさがわからない」61.7%、「情報量が少ない」33.3%、「情報の質が低い」28.4%、「情報量が多すぎる」17.3%、その他8.6%、不明1.2%となっていた。

1.1.8 信頼できるウェブサイト

 利用している情報が、「かなり信頼できる」「まあまあ信頼できる」と回答した人1,000名に、どのようなウェブサイトが提供する情報が信頼できるかと上位5つをあげてもらったところ、「大学病院、国立病院」45.2%、「公的な研究機関」42.4%、「患者(個人または団体)」36.6 %、「民間の医療情報提供会社」35.7%、「診療所・クリニック」35.2%、「厚生省などの国の機関」31.8%、「製薬メーカー」30.2%、「地域の中核病院」24.0%、「医師会」23.8%、「保健所」18.4%、「薬剤師」12.5%、その他2.1%、不明1.0%となっていた。

1.1.9 情報内容の信頼性の基準

 情報を利用する時、内容の信頼性の基準としてどのような点に留意しているかに関し、「信頼できる」と思われる要素の中で重要なものは何かと尋ねたところ(複数回答)、「実在する医療機関が提供する情報である」55.0%、「公的な機関が提供する情報である」48.1%、「医師または医師団体が提供する情報である」47.5%、「患者(団体)が提供する情報である」44.7%、「薬をつくっている製薬メーカー自身が提供する情報である」28.5%、「薬剤師が提供する情報である」18.3%、その他2.3%であった。

1.1.10 情報の信頼性を損ねる要因

 情報を利用する時、利用者側からみて「信頼性を損ねる」要因は何かと尋ねたところ(複数回答)、「誰が情報提供者かよくわからない」67.3%、「情報が一方的で偏っている」60.5 %、「情報提供に営利的な要素がからんでいる」58.6%、「情報の作成日が古い」44.3%、「裏付けとなる文献・資料など、情報の出所が不明である」43.8%、「営利企業が提供している」42.3%、「情報に科学性、客観性がない」37.2%、「専門家の監修を経ていない」26.3%、「情報の作成日が不明である」26.2%、その他1.4%であった。

1.1.11 掲示板やオンライン会議室の利用頻度

 インターネット上の掲示板やオンライン会議室の利用頻度については、「ほとんど毎日」10.8%、「1週間に1度以上」14.9%、「1カ月に1~3回」27.5%、「1年に1~数回」46.8%であった。

1.1.12 掲示板やオンライン会議室利用のメリット

 掲示板やオンライン会議室を利用するメリット(利点)は何かと尋ねたところ(複数回答)、「同じ患者の書き込みから参考情報が得られる」61.7%、「病気や治療法に関する情報が交換できる」50.9%、「医師など専門家の意見をきくことができる」33.6%、「医療機関や医師に関する情報が交換できる」24.1%、「自分の意見を書き込むことができる」20.3%、「コミュニケーションを深めることができる」19.9%、「自分の持っている情報が提供できる」12.7%、その他 2.4%であった。

1.1.13 掲示板やオンライン会議室の利用時の問題点

 掲示板やオンライン会議室を利用する時の問題点については(複数回答)、「内容に思い込みや偏見がある」51.9%、「営利、広告目的の投稿がある」46.0%、「投稿者の身分、立場がわからない場合がある」40.6%、「感情的なやりとりがある」36.2%、「投稿者自身のプライバシーが危ないことがある」26.8%、「他人のプライバシーを侵害する投稿がある」25.7%、「誹謗、中傷の内容がある」25.3%、「低俗な表現や乱暴な言葉遣いがある」24.2%、「匿名の投稿がある」20.6%、その他 2.6%であった。

1.1.14 医療相談の体験

 回答者自身が今までにインターネットで医療相談をしたことがあるかどうか尋ねたところ (同じ内容で複数回のやりとりは1回とみなした)、「1回利用したことがある」16.7%、「2回以上利用したことがある」12.0%、「利用したことはない」71.3%であった。
 なお、この質問で「利用したことがある」と回答した人310名に、相談の相手がどのような立場の人だったかを尋ねたところ (複数回答)、「医療機関のサイトや相談ページで直接は知らない医師」64.5%、「患者(団体)」17.1%、「民間の医療情報提供会社」16.8%、「薬剤師または薬局」9.7%、「製薬メーカー」9.7%、「かかりつけの医師」8.4%、「利用している医療機関の他の医師」7.1%、「医療機関のサイトや相談ページで医療従事者ではない人」6.8 %、「医療機関のサイトや相談ページで看護婦や検査技師などのコメディカル」5.8%、「保健所職員」1.6%、その他 2.3%、不明0.3%となっていた。

1.1.15 医療相談時の不安

 今までの医療相談において、または今後、医療相談などのオンラインでのケアサービスを利用するに際して、利用者側からみて「不安に感じる」のは、どのような場合であるかを尋ねたところ (複数回答)、「自分の健康データなど個人情報が守られているかわからない場合」62.1%、「得られたアドバイスが正しいものかどうかわからない場合」58.4%、「相手が本当に実在する医師かどうか確認できない場合」57.2%、「相手が医師など医療従事者でない場合」39.7%、その他1.8%であった。

1.1.16 信頼できる医療相談の相手

 オンラインで医療や健康に関する相談する際、信頼できる相手として誰を選ぶかについて、上位3つまであげてもらったところ、「医師」93.1%、「薬剤師」37.8%、「患者(団体)」33.5%、「看護婦・検査技師などのコメディカル」32.2%、「民間の医療情報提供会社」26.8%、「保健所職員」16.8%、「製薬メーカー」11.1%、その他 1.3%であった。

1.1.17 個人の医療(健康)情報への取り扱いへの関心

 インターネットの普及でプラーバシー性の高い個人の医療(健康)情報が、さまざまに流通・利用されるようになっていくことに関し、個人の医療(健康)情報がどう扱われていくかについて関心の程度を尋ねたところ、「非常に関心がある」35.1%、「まあまあ関心がある」54.5%、「あまり関心はない」10.2%、「まったく関心はない」0.3%であった。
 なお、この質問で、「非常に関心がある」「まあまあ関心がある」と回答した人968名に、どのようなことに関心があるかを尋ねたところ (複数回答)、「どのような目的に利用されているかについて」76.3%、「第三者に利用されていないかについて」64.7%、「誰が情報やデータを扱っているかについて」59.8%、「何の情報が収集されているかについて」55.7%、「どのように内部で管理されているかについて」53.3%、「コンピュータのハッキングや不正アクセスに対して防禦対策があるかについて」44.1%、「保管された情報が間違っていないかどうかについて」29.5%、その他 0.5%、不明 0.5%となっていた。

1.1.18 プライバシーポリシーの必要性について

 インターネットを利用して医療機関や企業が、個人の医療(健康)情報を取り扱う場合、個人情報の取得方法や管理方法に関して、個人情報の取り扱い方針を作成し、これをウェブサイト上で利用者に告知する、いわゆるプライバシーポリシーについて、その必要性を尋ねたところ、「プライバシーポリシーは不可欠である」80.9%、「プライバシーポリシーはできればあったほうがいい」15.9%、「プライバシーポリシーはなくてもいい」1.2%、「よくわからない」2.0%であった。

1.1.19 プライバシーポリシーの運用法について

 法的な拘束性のないプライバシーポリシーの運用に際して、第三者機関からのチェックや法的な規制の必要性を尋ねたところ、「プライバシーポリシーを法的に義務づけるべきである」40.8%、「法的な規制もしくは強制力のあるガイドラインが必要である」26.7%、「プライバシーポリシーの策定だけでなく、これを監査・評価する第三者機関の設置が必要である」26.2%、「プライバシーポリシーの自主的な運用で充分である」6.3%であった。

1.1.20 倫理規範やガイドラインについて

 インターネット上で提供される情報やサービスの質を確保するため、情報やサービスの提供者が自主的に定めていく倫理規範やガイドラインについてどう思うかと尋ねたところ、「ぜひ必要だと思う」62.8%、「やや必要だと思う」34.4%、「あまり必要だと思わない」2.6%、「必要ない」0.2%であった。
 この質問で「あまり必要だと思わない」「必要ない」と回答した人30名にそう思う理由を尋ねたところ (複数回答)、「自主基準の運用のチェックが難しい」33.3%、「すべて事業者の自主性に任せればよい」30.0%、「自主基準では実効性がない」26.7%、「法的な規制があれば充分である」23.3%、その他3.3%不明6.7%となっていた。

1.1.21 自由回答

 医療・保健分野においてインターネット上で提供される情報やサービスの質、もしくは個人情報保護の問題などに関して、意見を自由に募ったところ、全部で538件のコメントがあった。(全コメントを資料1-1に記載した)


1.2. 性別によるクロス集計結果

 回答者を男女の2群に分け、他の質問項目に対するクロス集計を行った。その結果と分析を資料1-2に示す。

1.3. 疾患別によるクロス集計結果

 回答者を高血圧、糖尿病、アトピー性皮膚炎、喘息、胃がん・乳がん・大腸がんの疾患別のグループに分け、質問項目に対するクロス集計を行った。 その結果と分析を資料1-3に示す。

1.4. 患者・家族別によるクロス集計結果

 回答者を患者本人と家族グループに分け、質問項目に対するクロス集計を行った。 その結果を資料1-4に示す。

1.5. 年代別によるクロス集計結果

 回答者を年代別グループに分け、質問項目に対するクロス集計を行った。その結果を資料1-5に示す。

1.6. 利用頻度によるクロス集計結果

 回答者を問3のインターネットの利用頻度の回答によって4群に分け、質問項目に対するクロス集計を行った。その結果を資料1-6に示す。



D. 考察

 最初にアンケート回答者のプロフィールについてであるが、今回の調査対象者はすでに何らかの健康上の問題をかかえており、インターネット上で医療(健康)に関する情報やサービスを利用した経験のある、または現在利用最中の人たちであった。
 従って、今回の調査で得られた分析データからは、医療(健康)に関する情報を得るために、これからインターネットを利用しようとしている人たち、もしくは今後、病気になった時に利用するかも知れない人たちは調査対象からはずれていることを了解しておく必要がある。
 回答者の年齢では、全体の平均年齢が37.1歳と比較的若い数値を示していたが、これは選定した疾患及び調査対象者データベースの構成を反映したと考えられる。各疾患ごとの平均年齢も、それぞれの疾患の罹患者の一般的な年齢層と比較して若い傾向があるが、これも同様の理由と考えられる。
 回答の内容を見ていくと、インターネットの接続方法については、「モデムまたはISDN利用によるダイアルアップ接続」が過半数を占めたが、ブロードバンド接続の可能な「ADSLまたはxDSL」と「CATV」を合わせてすでに4割を超え、今後の急速な普及が予想される。
 検索エンジンについては、「Yahoo!」が 6割を超え、他を圧倒していた。「Yahoo!」は医療に限らず、生活情報その他の分野でも検索エンジンとしての利用頻度が高く、インターネットへ接続するポータルサイトとなっていることから、アクセスのしやすさ、便利性から、医療(健康)情報の入口としても利用されていることがうかがえた。情報の利用頻度は、「ほとんど毎日」から「1カ月に1~3回」までを合わせて、70%を超えていて、回答者における利用頻度が高いことが示された。
 利用している情報の内容については、「病気に関する一般的情報」(73.7%)や「病気の治療法に関する情報」(59.2%)「薬に関する情報」(54.9%)などが、「医療機関に関する情報」(32.0%)や「医師に関する情報」6.9%よりも高くなっているが、これはすでに実際に疾患を有していてすでに通院治療を受けている割合が高く、新規に病気になったりした時に必要とされる医療機関や医師に関する情報のニーズが相対的に低く出たと考えられる。
 利用情報の信頼性については、「かなり信頼できる」と「まあまあ信頼できる」を合わせて9割を超えていた。いっぽう、「あまり信頼できない」と「ほとんど信頼できない」を合わせた数字は7.5%であった。これらの数字から、全般的に「信頼できる」とする割合が高かったように見えるが、「まあまあ信頼できる」という回答には、信頼性を強く否定する理由がないかわり、積極的に信頼できているわけでもないあいまいな立場も含まれていることが考慮される。「かなり信頼できる」とする回答者が9.5%に過ぎないことに留意しておきたい。
 情報内容の信頼性のひとつの基準として、情報提供者の立場による信頼性については、「実在する医療機関が提供する情報である」、「公的な機関が提供する情報である」、「医師または医師団体が提供する情報である」の順で、信頼性が高いことが示されたが、さらに「患者(団体)が提供する情報である」がこの後に続いた。
 また、情報の信頼性を損ねる要因については、「誰が情報提供者かよくわからない」「情報が一方的で偏っている」、「情報提供に営利的な要素がからんでいる」、「情報の作成日が古い」、「裏付けとなる文献・資料など、情報の出所が不明である」、「営利企業が提供している」、「情報に科学性、客観性がない」、「専門家の監修を経ていない」、「情報の作成日が不明である」などがあげられた。
 これらはいずれも、一般的に情報の確実性、信頼性を裏付ける重要な指標であると考えられることから、こうした情報の信頼性を損ねる要因を個別に取り除いていくことにより、インターネット上で医療(健康)情報を提供していく際の信頼性の向上につなげられるものと期待される。
 次に、オンラインで患者や家族が情報や意見交換をして交流する掲示板や電子会議室の利用頻度についてであるが、「ほとんど毎日」と「1週間に1度以上」を合わせて25%を超え、4人に1人が週に一度以上、また 2人に1人が月に一度はこれらのサービスを利用していることが示された。一般にオンラインの掲示板や会議室は、お互いに知らないものどおしが時間や場所の制約を超えて交流をはかれる場所であるとされているが、回答者があげた目的は「同じ患者の書き込みから参考情報が得られる」、「病気や治療法に関する情報が交換できる」、「医師など専門家の意見をきくことができる」などが上位にあげられていることから、コミュニケーションの実現よりも、情報取得に強い意欲があることがうかがわれた。
 一方、この種の掲示板や電子会議室の利用には、オンライン独特の問題があることも指摘され、「内容に思い込みや偏見がある」、「営利、広告目的の投稿がある」、「投稿者の身分、立場がわからない場合がある」、「感情的なやりとりがある」ことなどが上位にあげられた。  オンラインで患者や家族が外の世界と交流できることは、自宅で治療を行いながら社会に参加したり、閉じこもりがちな生活の質(QOL)を高めるためにも有用性が評価されているが、オンライン上のコミュニティに安心して参加できるためには、これらの問題への当事者レベルでの対応が求められることも示唆された。
 インターネットを介して、患者や家族が医療や健康に関するアドバイスを求めるオンラインでの医療相談については、回答者の3割近くの人がインターネットを使った医療相談の経験があるとして、医療相談の利用が進んでいることが示された。また、この時の実際の相談相手として、医師が一位にあげられたが、この場合の相手は自分がかかっている医療機関や医師でなく、3分の2近くが「医療機関のサイトや相談ページで直接は知らない医師」であった。普段、顔を合わせている医師には訊けないことを質問したり、病院に行く前にネットで相談しているケースがあると推測された。また、相談の相手は、必ずしも医療機関や医師だけでなく、「患者(団体)」や「民間の医療情報提供会社」「薬剤師または薬局」などもあげられていた。一方「かかりつけの医師」は 8.4%と低い数字で、医療機関の医師側においては、まだ自分の患者相手と1対1のコミュニケーションをとれる体制になっていないことが推測された。しかしながら、オンラインで医療や健康に関する相談する際、信頼できる相手は誰かと尋ねたところ、「医師」をあげるのが93.1%と、他を圧倒していたことから、今後、かかりつけ医を含め、医師と患者(家族)の間のコミュニケーションに発展の可能性があることも示唆された。
 今までの医療相談において、または今後、医療相談などのオンラインでのケアサービスを利用するに際して、利用者側からみてどのような場合に「不安に感じる」かを尋ねたところ、「自分の健康データなど個人情報が守られているかわからない場合」、「得られたアドバイスが正しいものかどうかわからない場合」、「相手が本当に実在する医師かどうか確認できない場合」などが高位にあげられていた。
 個人情報の取り扱いについては、わが国でも個人情報保護法の整備に伴い国民全般の関心が高まっているところである。今回の調査でも、インターネットの普及でプラーバシー性の高い個人の医療情報が、流通・利用されるようになっていくことに関し、個人の医療(健康)情報がどう扱われていくかについて関心の程度を尋ねたところ、「非常に関心がある」35.1%、「まあまあ関心がある」54.5%と、合わせて89.6%と非常に高い数字となっていた。具体的には、「どのような目的に利用されているかについて」、「第三者に利用されていないかについて」、「誰が情報やデータを扱っているかについて」、「何の情報が収集されているかについて」に高い関心が示された。  また、医療機関や企業が、個人の医療(健康)情報を取り扱う場合、その取り扱い方針を策定するいわゆるプライバシーポリシーについて、その必要性を尋ねたところ、「プライバシーポリシーは不可欠である」または「できればあったほうがいい」の両方を合わせて96.8%に達した。うち、「プライバシーポリシーは不可欠である」としたのが8割を超え、利用者のプライバシー保護に対する関心が非常に高いことが示された。
 さらに、このプライバシーポリシーの運用法については、「プライバシーポリシーを法的に義務づけるべきである」が40.8%、「法的な規制もしくは強制力のあるガイドラインが必要である」が 26.7%、「プライバシーポリシーの策定だけでなく、これを監査・評価する第三者機関の設置が必要である」が26.2%、これらを合わせて93.7%に達していた。「プライバシーポリシーの自主的な運用で充分である」は6.3%だけであった。
 今日、インターネットのような新規の技術媒体がプライバシーやセキュリティの面で予測外のトラブルを招来するかも知れないという不安がベースにあり、これに個人の医療情報が漏れた場合のリスクの懸念が重なり、このような高い関心が生まれてきていると思われる。
 今回の調査対象者はすでにインターネットを比較的活発に使いこなしていること、またクロス集計などから利用頻度が高い人ほどプライバシーへの関心が高いことからこの傾向が強く反映されたとみることもできよう。付属資料に記載した自由回答のコメントからその不安の様子が読み取れる。
 インターネット上で提供される情報やサービスの質を確保するため、個人情報の扱いを含めて、Webサイトの運営主体者が、自律的な行動基準として定めていく倫理規範やガイドラインの必要性を問う質問に対し、「ぜひ必要だと思う」が6割を超え、「やや必要だと思う」を合わせると、97%に達していた。プライバシーポリシーと同様、きわめて高い割合で、質の確保を目的とした倫理規範を導入することを望んでいることがうかがえた。倫理規範やガイドラインは必要としないとする少数の人たちも、その理由は「自主基準の運用のチェックが難しい」、「自主基準では実効性がない」、「法的な規制があれば充分である」などで、「事業者の自主性に任せればよい」とするのは 3 分の1に満たず、自主基準では不充分だと考えていた。


E. 結論

 医療・保健分野におけるインターネット利用を有効に進めていく上での課題を検討するため、患者や家族など一般の人が、インターネットで医療や健康に関する情報やサービスをどのように利用しているかの状況や意識を分析するアンケート調査を行った。
 現在、医療機関や企業、患者(団体)などが提供する情報やサービスについては、概して「信頼できる」としながらも、積極的に信頼できるとする人は少なく、一部には「信頼できない」と考える人もいることがわかった。その理由は、「情報の中身の確かさがわからない」「情報量が少ない」、「情報の質が低い」などであった。そして、情報の信頼性を損ねる要因としては、「誰が情報提供者かよくわからない」、「情報が一方的で偏っている」、「情報提供に営利的な要素がからんでいる」、「情報の作成日が古い」、「裏付けとなる文献・資料など、情報の出所が不明である」などがあげられた。
 また、インターネットを利用して医療相談サービスを体験した人は3割近くのぼり、手軽に利用できる医療相談が普及していることがわかった。ただ、体験者の多くは「自分の健康データなど個人情報が守られているかわからない」、「得られたアドバイスが正しいものかどうかわからない」、「相手が本当に実在する医師かどうか確認できない」などの不安を抱いていた。
 さらに、インターネット上でのプライバシー性の高い個人情報の取り扱いに関し、9割近くの人が関心を抱いていることがわかった。また、8割の人がWebサイトの運営者が個人の医療(健康)情報を取り扱う場合には、その取り扱い方法を定めるプライバシーポリシーが不可欠であるとし、インターネット上で提供される情報やサービスの質を確保するための倫理規範やガイドラインについても、6割以上の人が「ぜひ必要である」と考えていた。
 これらの結果から、今後、医療・保健分野において、医療機関、企業などの事業者や個人が、インターネットなどの技術媒体を利用して、患者や家族、一般向けに、医療や健康に関する情報やサービスを提供していく際には、個人情報の保護に留意しつつ、情報やサービスの質を確保していくために、自主的に運用可能なプライバシーポリシーや倫理規範、ガイドラインなどが検討されていく必要があることが示された。





<資料>


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