活動報告

「JIMAインターネット医療フォーラム2015」演者発表要旨

■日時 平成27年12月9日(水) 13:30~17:00
■場所 東京・中央区晴海区民館

<一般口演>

1) 新しい認知症の考え方 ~「情報薬」による新認知症対策~

辰巳 治之 (JIMA理事長、札幌医科大学教授)

要旨: 情報を、「フル・マルチメディア刺激で、伝えて心を動かすもの」と定義する。そこで「心」とは神経細胞の機能の表れで有り、一般的には、外的刺激(言葉・薬など)、或いは、内的刺激(記憶・意志等)により、細胞の状態を変えることが出来る。ある特殊な刺激のパターンが、シグナルとなり、そして情報となる。今回は、それを解剖学的に示す。情報をタイミング良く処方すると、細胞や人に作用する「薬」として使える。フル・マルチメディアの刺激から、細胞、人、社会に適した良い治療薬の開発が可能である。このような発想から「情報薬」という言葉を創造し、その応用実験を行ってきた1)。

現在のところ情報薬はI型:In Social, II型:To-Brain, III型:In-Brain, IV型:To-Cellular, V型:In-Cellularに分類される2)。この定義に従えば、従来の薬はIV型の細胞へ直接働きかける情報薬の範疇に入り、遺伝子治療や放射線治療は細胞内へ直接働きかけるV型と言える。一方で、細胞レベルの認知症が、通常の病気で、人間レベル、社会レベルの認知症がある。さらに今後さらに問題になる高齢社会の問題である「認知症」予防の特効薬が「情報薬R」と考える。

1)This work was supported by JSPS KAKENHI Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research Number 24650426.
2) Tatsumi H, J IEICE 97(8) :695-701 (2014), Tatsumi H, IEICE Technical Report 114 (183):23-29(2014)

2) 就職活動に関係する自殺に関する新聞報道の特徴

三上 遼(早稲田大学人間科学部)
山崎 景佳(名古屋文化学園保育専門学校)
小野田 太郎(東海大学医学部)
扇原 淳(早稲田大学人間科学学術院)

【背景】
我が国では、20~30代の死因の一位が自殺であり、国家的規模での自殺対策が進められている。自殺に関連する因子の一つとしてメディアによる自殺報道があり、WHOでは自殺報道に関するガイドラインを、朝日新聞社では社内指針を公表している。一方、経済情勢の悪化やキャリアデザインに悩む若者の増加を背景にした就職活動に関係した自殺が社会問題化している。本研究では、新聞メディアを対象として就職活動に関連する自殺の報道に着目し、その特徴について明らかにすることを目的とした。

【対象・方法】
読売新聞のデータベースである「ヨミダス歴史館」と朝日新聞のデータベースである「聞蔵Ⅱビジュアル」を利用した。まず、1991年~2015年の記事を対象として、「自殺 就職活動」をキーワードに検索した。次に、その記事を基にデータベースを作成した。そして、抽出した記事について記事件数、文字数等をカウントし、時系列分析を行った。

【結果・考察】
抽出された記事数は朝日新聞141件、読売新聞130件、総文字数は朝日新聞237,573 文字、読売新聞209,537 文字、写真の掲載があった記事は朝日新聞82件、読売新聞56件、就労関係のデータ記述のある記事は朝日新聞7件、読売新聞27件、自殺の要因を単純化した見出しを掲載していた記事は朝日新聞6件、読売新聞12件という結果になった。記事件数の推移としては、二社共に2010年から記事件数が急に増加する傾向が見られた。また、記事件数と求人倍率に関しては負の相関が見られた。就職活動に関連する自殺に関する新聞報道においても「自殺を扇情的に報道しない、自殺要因を単純化して報道しない」等のWHOのガイドラインや朝日新聞社社内指針中に示されている項目に抵触する記事があった。今後、就職活動に関連する自殺報道をする場合、自殺の要因を明確化した上での反扇情的な報道が必要と考えられた。

3) 子宮頸がんワクチンに関する新聞報道の時系列分析

横内 亮貴(早稲田大学人間科学部)
小野田 太郎 (東海大学医学部)
扇原 淳(早稲田大学人間科学学術院)

【研究目的】
予防接種は感染症の流行・蔓延防止に重要な役割を果たしており,社会全体の健康を維持するために可能な限り高い接種率が求められる.個人の予防接種行動に対する影響要因の一つとして,メディア報道が指摘されている.本研究では,新聞メディアを対象として, 子宮頸がんワクチン報道に着目し,その特徴を明らかにすることを目的とした.

【対象と方法】
読売新聞のデータベースである「ヨミダス歴史館」, 朝日新聞のデータベースである「聞蔵Ⅱビジュアル」を使用した. まず, 2007年1月1日~2015年9月30日の記事を対象として, 「子宮頸がん 予防接種」をキーワードに検索, 抽出し, データベースを作成した. 抽出した記事について掲載月, 文字数等をカウントし, 時系列分析を行った.

【結果・考察】
抽出された記事は238件であった. そのうち子宮頸がんワクチンに肯定的な記事は154件(65%)あり, 否定的な記事は51件(21%)であった. 否定的な記事51件のうち, 副反応が問題となり定期接種が一時中止された2013年6月までの記事数は4件(8%)あり, それ以降の記事数は, 47件(92%)であった. 否定的な記事には, 副反応について触れている記事が多く, 2013年6月までの記事では副反応に関する記事はほとんど見られなかった. 海外ではすでに副反応に関する情報が出ていたにもかかわらず、定期接種の一時中止決定以前に副反応に関する記事は,接種推奨記事よりも少ないことが明らかとなった. このように判断に困る事例があり, 新聞各社も厚労省などのオフィシャルステートメントに依存せざるを得ない報道が見られた.

4) ライフサイエンス系LinkedOpenDataを医療安全管理の視点から個人情報保護を考える

森田 巧 (JIMA運営委員)

要旨: このほど内閣官房IT総合戦略室から「個人の遺伝情報」を改正個人情報保護法の対象とする旨が示された。一方ゲノム解析は加速度的に進み、研究目的で多くの遺伝子発現情報がデータ公開されるようになり、それらをネットワークを介して自由に検索できる巨大なライフサイエンス系オープンデータベース、いわゆるLOD(LinkedOpenData)が出現した。
人類に有益な資源である遺伝情報は、オープン化により多様性をもち開花したが、同時に個人の機微情報でもある。二つの矛盾したダブルバインドである遺伝情報管理はどのようにすべきか、医療安全管理面から考察する。

5) ITヘルスケア学会におけるヘルスケアデータ利活用戦略をめざしたOpenData構想について

水島 洋(国立保健医療科学院・ITヘルスケア学会代表理事)

要旨: IT技術の進歩によって、これまでになく多くのデータが得られるようになってきている。これまでは医療機関における検査データや医師の所見などのデータの集積によって患者データ収集が行われていたが、ウェアラブル機器の登場や、患者によるSNSなどブログへの闘病記、つぶやき、さらには健常人の健康記録・運動記録・日記などからも、その人の健康状態を知るための多くの情報が得られるようになってきている。ビッグデータの活用が話題になっているうえからも、これらの情報をいかに活用するかが重要となってくる。

しかし、現状では、Twitter、Facebook、LineをはじめとするSNSや、私も愛用しているFitbitやBasis、Withingsなどの活動量計、Appleヘルスケア、HealthVaultなどの健康データは、すべて海外企業によるものなので、海外に集 積されている。

個人による情報登録の仕組みを作ることで、国内でも健康データの集積することができれば、匿名化しOpenDataとして提供することによって様々な活用が可能となってくる。また、個人情報を含んだ形でのデータを預かることも重要な機能と考えている。

ITヘルスケア学会では、個人健康データを新たな資産として活用するためのプラットフォームを検討し、ガイドライン作成などを始めているが、 その有用性や課題などに関して議論したい。

6) テレビ電話を使った都心在住高齢者向けの生活情報支援サービスの試み

三谷 博明 (株式会社アリエス)

要旨: 現在、わが国では超高齢化、少子化が進み、高齢者人口の割合が26.7%と過去最高、80歳以上の人口も1,000万を超えるなど、かってない高齢化社会が進んでいる。また、家族・世帯状況をみると、一人暮らし又は夫婦のみの世帯が53.6%まで増加、高齢者の一人暮らしからくる社会的問題も発生し始めている。さらに、高齢者が年齢や自らの身体状況からくる日常生活への影響だけでなく、日常の買い物や、病院への通院、交通機関の利用等において不便を感じていることが報告されている。こうした状況は地方の過疎地のみならず大都市の中でも同じく進行している。

株式会社アリエスでは、このたび、自社が所在する東京都港区南青山地区の高齢者世帯向けに、インターネットのテレビ電話端末を使った傾聴・安否確認といった基本サービスに加え、買い物や病院付き添い等の有料オプションサービスの提供も行っていく実証事業を開始した。本事業は、総務省ICT街づくり推進事業(2013年)をモデルとし、タブレット型アンドロイド端末と専用IP電話システムを利用するが、要望に応じて各戸を訪問する地域密着型の活動を想定している。

今回対象の港区南青山4丁目地区は1,550世帯、3,312人が居住する狭いエリアであるが、華やかな表通りから一歩路地裏に入ると閑静な住宅地がひろがる「一見住みやすそうな」街ながら、大都市で食品や日用品の買い物に困る「都会の買い物難民」が増えている地区のひとつでもある。このような都心在住の高齢者を対象にすることで、今後どのようなサービスが期待されるか、また関連して検討すべき課題を拾い上げていきたいと考えている。

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